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東京地方裁判所 昭和27年(行)34号 判決

原告 康安道

被告 東京都知事

一、主  文

訴外東京都葛飾税務所長が別表上欄記載の通りに原告に対して為した処分の取消を求める原告の請求を却下する。

その余の原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「訴外東京都葛飾税務事務所長が原告に対し、別表上欄記載の通りに為した処分、並に被告が別表下欄記載の通りに為した決定はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、

「原告は肩書地に於て打球(パチンコ)場を経営するものであるが、訴外東京都葛飾税務事務所長(以下税務事務所長と言ふ)は、打球場が地方税法(以下法と言ふ)第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものであるから、原告は東京都税条例第三十二条の入場税特別徴収義務者であるとして原告に対し、別表上欄記載の通りの処分をして原告に通知した。原告は該処分には不服であつたので被告に対して異議申立を為したが、被告は別表下欄記載の通りに原告の異議申立を理由なしとして棄却する旨の決定を為して原告に通知し、原告はそれぞれその日附の頃その通知書を受領した。

然し乍ら打球場施設は以下に述べる如く、法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものではない。

法七十五条第四項第四号は、同項第一号乃至第三号に掲げられて居る施設に類する施設を入場税の対象となるものと定めて居るのであるが、その第一号乃至第三号に掲げられて居る施設はいずれもその施設の利用者がその施設を利用すること自体を楽しむ性質の施設なのであつてその利用者が施設利用の結果に対し施設経営者から景品を受けることがある場合にも、施設利用者に対して景品を与へるか否か、又与へるとするならば幾何の景品を与へるかは、施設経営者において経営採算上の見地から一方的にその都度決定し得るものなのであつて、その景品の得喪自体が右施設利用の娯楽性の本質的内容を成すことはない。ところが打球場施設は事情が全く異つて居る。打球場施設利用者の打球が当り穴に入つた場合にはその施設の経営者は常にその利用者に対して当り穴に入つた割合に応じて無制限に景品を与えなければならない義務を利用者に対して負ふのである。従つて打球場施設経営者が利用者に対して交付する物品は、名は景品であるが、その実体は義務なのであつて、施設経営者が与へるか否か、又幾何を与へるかをその都度一方的に決定し得るが如き一方的任意的なサービスではないのである。之に対応して打球場施設の利用者は単に打球を当り穴に入れることだけを楽しむのでなく、それと不可分に打球が当り穴に入つた場合に当然受け得べき景品を得ることを楽しむのであつて、景品の得喪が単に副次的な娯楽の要素に過ぎないのではない。打球場施設においてはその施設においてはその施設利用の結果に対して与へられるべき景品の得喪はその施設利用の娯楽性の本質的内容を成すものなのである。かくの如く景品の得喪を施設利用の娯楽性の本質的内容とする打球場施設が施設の利用自体を娯楽性の内容とし、景品の得喪を娯楽性の内容としない法第七十五条第四項第一号乃至第三号掲記の各施設に類するものと言ふことはできない。

この差異は課税標準の算定において顧著に現はれる。入場税は所謂消費税に属するものであるが、消費税とはある人が一定の金額を消費する場合に、その消費行為において担税力を把握し、その消費者に対して課する処のものである。然して所謂消費とは、単に一定額の金員を支出に充てることではなく、その支出された金額について経済的価値を喪失することを意味するのであつて、その担税力は支出された金員の中喪失された価値の限度において把握されるのである。従つてその課税標準も、支出金員の中喪失された価値でなければならない。法第七十五条第一項は入場税の課税標準を入場料金又は利用料金とするものと定めて居るが、入場税が消費税に属するものである以上、課税標準としての入場料金又は利用料金とは、入場者又は利用者が支出した料金の中その喪失した経済的価値の限度における金額でなければならない。ところで第一号乃至第三号掲記の各施設にあつては、その施設の利用者に対して景品を与へるか、又幾何を与えるかは施設経営者がその都度全く一方的に決しうるのであるから、施設利用者が利用の対価として支出した金員の全額について、その支出の時に価値を喪失するものと言ふことができる。従つてその支出された料金の全額について担税力が把握されることとなり、その料金額が入場税の課税標準となり得るのである。然し打球業はこれと異る。打球場施設にあつては、顧客は予め施設経営者より「玉を買ひ」自らその玉を打球器に入れて之を撥き、当り穴に入れようとするものであるから、顧客が玉を買ふ料金が一応その施設の利用者がその施設を利用する為に支出した金員であると言ふことができるのであるが、その支出金員と顧客が喪失する経済的価値は必ずしも一致しない。その顧客の打球が当り穴に入らなかつた場合には、その顧客は景品を受け得ない結果として、その施設利用の為に支出した金員の全額について経済的価値を喪失するが、その打球が当り穴に入つた場合には経営者より常に必ず所定の割合による景品を受けることができるので、顧客はその受けた景品の量に応じ、支出した金員の全部又は一部についてその経済的価値を喪失しなかつたことになる。斯の如く打球場施設においては顧客は施設利用の為に支出した料金全額について経済的価値を喪失するものと限らないから、その料金額について担税力の把握さるべき謂れはなく、従つてその料金額が課税標準に該当するものではない。然も顧客が支出した料金の中幾何についてその経済的価値を喪失するかは、その顧客の技倆や、偶然により左右されるものであり、個々の場合に差異があるのであつて、一律に確定されるものではない。されば打球場施設の利用については、担税力の把握される限度も、従つて又課税標準も一律に確定することができないものなのである。東京都主税局長は管下各税務事務所長に対し、昭和二十六年十二月十日附主課発第一八三五号「第三種の施設の中パチンコ場(スマートボール其の他之に類する施設を含む)の利用にかかる入場税の課税標準について」と題する通牒を発したが、その内容は打球場施設の利用に対する入場税課税標準額決定の基準として業者が施設の利用者より受領する金員の中その六十五パーセントを景品代として、二十五パーセントを諸経費としてそれぞれ控除して、残りを税込の利用料金と見て課税標準を算定すべき旨を指示して居る。原告に対する右税務事務所長の処分も右通牒によつて指示された算定の方法に従つて為されたものであるが、その算定方法は所得税の課税標準算定の方法と酷似し、消費税である入場税の本質と全く相背馳するものであつて、打球場施設が元来入場税の対象たり得ざるものであるに拘らず強ひて入場税を課さうとする誤つた態度の結果生じたものに外ならない。

以上の通り打球場施設は入場税の対象となり得ないものである。であるから原告を始めとして多くの打球場施設経営者がその入場税についての申告もせず、顧客から入場税の徴収もして居ないのであり、他方顧客自身も打球場施設を利用するについて入場税を納付すべきものと考へて居ないのである。尤も業者が所定の入場税を徴収しなかつた場合にも特別徴収義務者として徴収すべきであつた入場税については納付義務を免れず、業者は法第八十七条第四項に基く求償権を行使するを以て足ると説く者もあるが、打球場施設の顧客は、施設経営者にとつて、氏名、住所等不明であつて、かかる求償権の行使は事実上不可能のことに属するのであつてそのこと自体が却つて打球場施設が入場税の対象とならないことを示すものと言ふべきである。

以上の処からして明らかな通りに打球場施設は法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものでなく、入場税の対象となるものではないから、別表記載の税務事務所長の処分も被告の決定も共に違法であり、取消を免れないものである。」と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、

「原告主張事実中原告がその主張の如く打球場を経営するものであること、税務事務所長が原告に対しその主張の如き処分を為して原告に通知したこと、原告がその処分を不服として被告に対し異議申立を為したこと、被告が原告主張の通りに該異議申立を理由なしとして棄却する旨の決定を為して原告に通知したことは何れも認める。

法第七十五条第四項第一号乃至第三号掲記の諸施設は、すべて興行的でない大衆娯楽の施設であり、その顧客が自らその施設を利用して遊ぶものである点において共通の性質を持つものである。この様な性質を有する施設は右第一号乃至第三号掲記の諸施設だけに限られるわけではなく、他にも多く存し、更に将来において出現が予想されるところから、第四号において「前三号に掲げる施設に類する施設」をあげて、前述の如き性質を有する施設全部についてこれを入場税の対象となるものと定めて居るのである。従つて打球場施設が法第七十五条第四項第四号の施設に該当するか否かは打球場施設が右に述べた様な第一号乃至第三号掲記の諸施設に共通の性質を具有するものであるか否かによつて決せられる事柄である。ところで打球場においてはその顧客は施設経営者より玉を買ひ、自らその玉を打球器に入れて之を撥き、当り穴に入れることを楽しむものである。顧客の打球が当り穴に入つた場合、その顧客は所定の割合に応じた景品を経営者より与へられることになつて居るのが通例であるが、打球場は元来風俗営業取締法によつて規制される賭博性のない単純な娯楽遊戯として認められて居るものであるから、その顧客に与へられる景品は遊戯の結果に対し、一時の娯楽に供する添物として与へられるものであるに止まり、景品の得喪そのものが打球場施設利用の娯楽性の本質的内容を成すのではなく、打球を当り穴に入れる遊戯の娯楽性の副次的要素を成すに過ぎない。されば打球場施設利用の娯楽性が、その副次的要素として景品の得喪を含んで居ても、それが第一次的要素を成すのではなく、顧客が自ら打球場施設を利用し、打球を当り穴に入れることを本質的娯楽要素とするものである以上、打球場施設が法第七十五条第四項第四号の施設に該当するものであることは明らかである。打球場の経営者が顧客に景品を与へるか否か、又幾何を与へるか、更にその景品を与へることが経営者の義務であるか任意的サービスであるかによつて、右の如き打球場の性質に変動を来たすことはなく、その様な事情は経営者の所得採算上に差異を生ずると言ふに過ぎず、打球場と同様に顧客の遊戯の結果に対して景品を与へるものとして釣堀その他多数の施設があるのであつて、独り打球場のみ別異に取扱はるべき理由はないのである。

原告は打球場施設においては入場税の課税標準を確定しようとしても不可能であると主張するが誤りである。入場税は法第七十五条に定める場所への入場又は施設の利用を為す者がその入場又は利用の為に料金を支払ふ処に担税力を見出し、その入場者、利用者に対して課せられる消費税である。為してその担税力の把握される消費とは、入場料、利用料金として金員を支出すること自体を言うのであつて、その消費者が料金の支出に対して対価或ひはこれに準ずる経済的価値を取得するか否かはこれを問はないものである、法第七十五条所定の第三種の施設においては入場税の課税標準はその施設利用の料金であるが、打球場においてはその顧客は経営者より玉を買ひ、その玉を以て打球器を利用し楽しむものであるから、打球場施設利用の対価即ちその利用料金はその玉を買ふ代金である。その玉を買ふ代金は玉一個当りについて一定しているのであるから、課税標準としての利用料金が確定して居ることは明らかである。顧客の技倆、偶然等により、顧客の受ける景品の量は変動するであらうが、それは施設経営者の所得に変動を来たすと言ふに過ぎず、入場税課税標準としての利用料金の確定とは何の関はりもないことである。東京都主税局長が原告主張の様な通牒を発したことは事実である。その通牒の趣旨とする処は、各税務事務所長が入場税特別徴収義務者である打球場施設の経営者に対して課税標準額及び税額の決定又は更正する場合、具体的な利用者数、玉の売上代金額の把握が技術的に困難であるので、個別的事例において認定が或ひは過大になり、或ひは過少となり、著しい不均衡を生ずる虞れがあるからその生ずる虞れのある不均衡を避ける一助として具体的に認定を為すに際つて一応の方法上の基準を示したに過ぎないのである。然してその認定に際つての基本的態度として極力過大な推定に陥ることを避けようとしたことから便宜上経営者の所得採算と言ふ立場に立つて、これに支障のない程度において推定すると言ふ方法を例示したのであり、その例示方法と異る方法に従つて認定することももとより差支へないのであつて、右通牒を以て課税標準額確定不能の例証とすることは当らない。打球場施設においても入場税課税標準としての利用料金は玉の代金として確定できるものである。

上叙の如く打球場施設は入場税の対象となるものであるから肩書地において打球場を経営する原告は、法第八十七条、東京都税条例第三十二条により入場税特別徴収義務者として施設の利用者より入場税を徴収し、これを東京都に納入しなければならない義務がある。然して入場税は行政庁の別段の賦課行為を俟たず、人が法第七十五条所定の場所に入場し、施設を利用することによつて当然納税義務の発生するものであるから、仮に原告の経営する打球場施設の利用者が入場税を納付すべきものであるとの意思を有して居なかつたとしても、その納税義務を負ふものである点にかはりはなく、原告は特別徴収義務者として利用者より入場税を徴収しなければならないものである。既に原告が特別徴収義務者として入場税を徴収すべき義務を負ふ以上、法第百十九条第二、三項の規定より推して、原告が利用者から現実に入場税を徴収しなかつたとしてもなほ東京都に対する関係においてはその徴収すべきであつた入場税について申告納付しなければならないものである。然るに原告は右申告も納付もしなかつたものであるから、税務事務所長が原告に対して為した別表上欄記載の処分並に原告の異議申立を理由なしとして棄却した別表下欄記載の被告の決定には何等の違法もない。」と述べた。(証拠省略)

三、理  由

訴外税務事務所長の為した別表上欄記載の処分の取消を求める請求について

行政事件訴訟特例法(以下特例法と言ふ)第二条、第三条によると、行政庁の違法な処分の取消を求める訴は、他の法律に特別の定のある場合を除いて処分をした行政庁を被告として提起しなければならないものとされて居る。右に所謂処分をした行政庁とは、「自己に帰属した権限に基き、行為の対象となつた人の権利義務に変動を生ぜしめる行為をした行政機関である。今本件について見るに、地方税法第三条の二、東京都税条例(昭和二十七年東京都条例第四十九号)第四条の三によると、税務事務所長は東京都知事より徴収金の賦課徴収に関する事項等について権限の委譲を受けて居るのであるから、その受任事項に属する本件の地方税法第九十四条第二項の決定並に之に附随する不申告加算税の決定は、税務事務所長が東京都知事の権限に属する事項について単にその事務の執行に当つたに過ぎないものと言ふことはできず、税務事務所長が自己に帰属した権限に基いて為した処分であると認められる。従つて別表上欄記載の処分を為した処分庁は税務事務所長であると言はなくてはならない。次に特例法第三条は、他の法律に特別の定のある場合を除いて処分庁を被告として訴を提起しなければならないものと規定して居るのであるからその反面において処分庁は同条により自己の為した処分の取消を求める訴について、被告として当該訴訟を追行する権能を附与され、然も当該訴訟における被告たるの適格を専有するものとされて居るのであり、その剥奪は他の法律に特別の定のある場合に限られるものと言はなくてはならない。然も大規模、複雑な行政機構を解明して正当な当事者たるべき者を探求する煩を避け、対外的に最も明瞭に現はれる処分庁を被告として訴を提起することを得しめようとする特例法第三条の要請からするならば、同条に所謂他の法律に特別の定めのある場合とは、特に法律自体において、処分庁以外の特定の行政庁を被告とすべき旨を定める場合のみを指すものと解するのが相当であつて、かかる法律の定のない限り行政処分の取消を求める訴については当該処分を為した行政庁が被告たるの適格を専有するものと言はなくてはならない。

ある行政庁に帰属せしめられた権限を他の行政庁に委任することができる場合においては、その権限事項の中如何なる部分を委任するかと言うことは、一応自由に決し得るわけであるが、その委任は法律に於て許されたる限度において可能なのであつて、全く無制約な事柄であると言ふわけではない。特例法第三条が他の法律自体において処分庁以外の行政庁を被告とすべき旨を定めて居る場合を除いて処分庁のみが当該処分の取消を求める訴についての被告たる適格を専有するものと定めて居る以上、行政庁の権限の委任も右特例法第三条の規定の趣旨に従つて為されなければならない。然る処右条例第四条の三但書第三号によると、税務事務所長に対する委任除外事項として異議申立に対する決定並に訴訟に関する事項が定められて居る(尤も昭和二十七年東京都条例第五十六号の改正によりその中訴訟に関する事項が削除された)ので、右条例によると税務事務所長は徴収金の賦課徴収に関する事項について処分を為す権限は有するが該処分の取消を求める訴について被告として訴訟を追行する権能を有しないものとされて居る訳である。然しながら条例は地方自治法第十四条第一項により法令に違反しない限りにおいてのみ地方公共団体にその制定を認められたに過ぎないものであるから、条例を以て法律と同一若くは法律に優先するものと見ることはできないから、右条例の規定を以て特例法第三条に所謂他の法律に特別の定のある場合に該当するものと言ひ得ないことは勿論であり、特例法第三条が法律の特別の定を以てのみ処分庁の訴訟追行権能を奪ひ得るものと定めて居り、他の法律にかかる特別の定のないにも拘らず条例を以て処分庁の訴訟追行権能を剥奪することは明らかに特例法第三条の規定の趣旨に反するものであつて、右条例第四条の三但書第三号の中訴訟に関する委任除外事項の定は処分庁としての訴訟追行権能を制約するのである限りにおいて地方自治法第十四条第一項からして当然に無効であると言はなくてはならない。(なお右条例第四条の三は税務事務所長に対し一般的に徴収金の賦課徴収に関する事項等を委任するものと定め、その中特定の事項についてその委任事項から除外することと定めて居るのであり、その除外事項の定の一部のみが法律に違反するに過ぎないのであるから、その違反部分の法律牴触はその他の部分の効力に影響を及ぼさず、実体上の処分権限の委任は有効なるものと解されるである。)従つて昭和二十七年東京都条例第四十九号、同第五十六号の何れの条例の下においても税務事務所長は別表上欄記載の処分を為す権限と、その処分の取消を求める訴においてその訴訟を追行する権能を有するものであり、その訴訟における被告たるの適格を専有するものと言はなくてはならない。

なお異議申立に対する決定(単に決定と言ふ)を為した行政庁(決定庁と言ふ)を被告として、異議申立の対象となつた原処分の取消を求め得るとする見解がないわけではない。特例法第三条は他の法律に特別の定のない限り処分庁を被告として訴を提起しなければならないものと定めて居るのであるから、法律に特別の定のない場合に、原処分庁と異る決定庁を被告として原処分の取消を求めることができるとするには、原処分の取消を求める訴と異議申立に対する決定の取消を求める訴とが法律上同一であると見ることになる訳である。然し遽かに両訴を同一なりと速断することはできない。決定において原処分を取消した場合は別として、異議申立を理由なしとして棄却した決定の取消を求める訴においてその理由とする処は通例は原処分の適法性を争ふに帰することが多いであろうが、決定そのもののみの違法を理由とする場合が考へられない訳ではないし更に異議申立を不適法なりとして却下した決定の取消を求める場合を考えて見ると、その決定を争ふことは原処分そのものの適法性を争ふものでないことは明らかであるから、原処分の取消を求める訴と、決定の取消を求める訴とはその実体上の理由においても必ずしも同一ではない。更に原処分の取消を求める訴と決定の取消を求める訴とは判決によつて形成される法律効果も、判決の既判力も異にする(覊束力によつてのみ同一の結果を生ずることが考へられるに過ぎない)ことを考へると、両訴を同一視することは到底許されないのであり、本件においては原処分と決定とが別個の行政庁によりそれぞれの権限によつて為された別個独立の処分なのであるから決定庁を被告として原処分の取消を求めることは特例法第三条の明文に反するものと言はなくてはならない。

以上判示の通りであつて税務事務所長の為した別表上欄記載の処分の取消を求める訴について被告たるの適格を有するのは税務事務所長だけであり、被告はこれを有しないからこの部分の原告の請求は却下を免れない。

被告の為した別表下欄記載の決定の取消を求める請求について

原告が肩書地において打球場施設を経営するものであること、税務事務所長が原告に対し、打球場施設は法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものとして別表上欄記載の通りの処分を為して原告に通知したこと、原告が該処分を不服として被告に異議申立を為し被告が別表下欄記載の通りに原告の異議申立を理由なしとして棄却する決定を為して原告に通知したことは当事者間に争がない。

そこで打球場施設が法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものであるかについて検討する。第四号は第一号乃至第三号に具体的に列挙されて居る諸施設に類する施設を入場税の対象となるものと定めて居る。第一号乃至第三号に掲記されて居る諸施設を通観すると、その諸施設はいずれも娯楽の為の施設であり、然もその顧客が自らその人的物的施設を利用して楽しむものである点において共通性を有するものと言ふことができる。従つて第四号に定める、第一号乃至第三号掲記の諸施設に類する施設とは右に述べた様な第一号乃至第三号掲記の諸施設に共通の性質を具へて居る施設を言ふものと解される。そこで次に打球場施設が右の如き性質を具有するものであるかについて考へる。先ず打球場施設が如何なる性質を有するかと言ふことは、個々の施設利用者の主観的の意図の如何に拘らず、客観的に打球場施設自体が如何なるものであるかによつて決せられることである。そこで打球場施設について見ると、打球場施設は一の娯楽施設であり、その顧客は施設経営者より料金と引換に玉の交付を受け(俗に玉を買ふと言はれて居るが、売買とは認められない)、その玉を打球器に入れてこれを撥き、当り穴に入れようとするものであり、その打球が当り穴に入つた場合通例顧客は所定の割合によつて施設経営者より景品を受けることもできることになつて居ることは公知の事実である。右の如き打球場施設の利用と言ふ行為が多分に射倖的な要素を持つに至つて居ることは明らかである。然しながら打球場の顧客が料金を支払つて玉の交付を受け、その玉を撥いて打球器の当り穴に入れようとすること自体において既に遊びとしての娯楽性を有する事柄であり、又顧客の支払ふ料金は玉の交付を受け、それによつてその打球場施設を利用し得んが為に支出される金員であつて顧客がその金員の価値について施設経営者との間において得喪を争う趣旨のものであるとは認め難い。されば打球場施設においては顧客は料金を支払つて施設を利用し、打球を当り穴に入れる遊びを為すものと言ふべきであつて直接料金並に景品の得喪を争ふことをその本質的な要素となすものではないと言はなくてはならない。従つて打球場は施設そのものとしては、打球を当り穴に入れる遊びの為の施設であると言ふべきである。その遊びの結果打球が当り穴に入れば顧客は通例所定の割合で景品を受けることもできるのであるから、その景品の得喪の期待が遊びの娯楽性を増大させる役割を果して居ることは事実である。しかし、それは本来の遊びの娯楽性を増大させると言ふに留まり、景品の得喪それ自体を争ふものとは言へず、施設の経営者が、営業の為に遊びの結果に対し景品を与へることを約することによつて遊びの娯楽性を増大させたことによるのであり、経営者が如何なる割合によつて景品を与へるかを約することによつて経営者の景品交付義務の内容が定まるのであつて、その義務が無制限なものであるかどうかによつて打球場施設の本質が左右されるものではない。

以上の処を綜合すれば、打球場施設とは、その顧客が施設経営者に料金を支払つて玉の交付を受け、、その玉を打球器に入れて撥き、これを当り穴に入れることを遊ぶ娯楽施設であり、打球が当り穴に入つた場合顧客は経営者より所定の割合で景品の交付を受けることもできるが、その景品は顧客が経営者との間において景品の得喪を争つた結果であるのではなく、経営者が遊びの娯楽性を増大させる為に遊びの結果に対して交付することを約したものであると言ふことができる。かかるものとしての打球場施設が第一乃至第三号掲記の諸施設に共通する性質を具へて居るものであることは明らかであるから、打球場施設は法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものと言はなくてはならない。

打球場施設がその施設自体の性質として法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当するものであることは前述の通りである。そこで次に打球場施設の利用について実定法上入場税の課税標準を確定することが可能であるかどうかについて検討する。租税理論上、入場税が消費税の範疇に属し、ある人が消費行為を為した場合にその消費と言ふ点に於て担税力を把握し、入場税を課するものであることは事実である。然して担税力の把握される処の消費行為を原告の言ふ様に経済的価値の喪失と規定することも或ひは論理的に可能であるかも知れない。然しながら実定法としての入場税の定がその様な租税理論に従はねばならないとする理由はなく、実定法としての入場税の規定が如何なる立場に立ち、如何なる者について又如何なる事実において担税力を把握して居るかは、租税理論とは別に、実定法規の合理的解釈によつて決せらるべき事柄である。実定規定が現在の租税理論と背馳する処があつても、その背馳するとの故のみを以て該規定の効力を云為することはできない。法第七十五条第一項において第三種施設の利用者に対し、利用料金を課税標準として入場税を課するものと定め、同条第五項において利用料金とは何等の名義を以てするを問はず、第三種施設の利用についてその対価又は負担として支払ふべき金品を言ふものと定められて居る以上、その理論上の立場は如何であれ、第三種施設の利用者は、その施設利用の対価又は負担として支払ふべき金額について入場税を納付すべき義務を負ふものである。従つて課税標準確定の能否の問題は、打球場施設の利用者がその施設利用について対価又は負担として金員を支払ふべきものであるか又支払ふべきものであるとするならば金額が確定し得るものであるかの点にある。前述の如く打球場施設は顧客において料金を支払ひ玉の交付を受けて、その玉を打球器に入れて撥き当り穴に入れることを楽しむものであり、顧客の支出する料金は経営者との間においてその価値の得喪を争ふ趣旨のものではなく、玉の交付を受けることによつて施設の利用して遊ぶためのものであるから、顧客が打球場施設の経営者より所謂玉を買ふに支出した料金が施設利用の対価であると言ふことができる。施設利用の結果顧客が経営者から景品を受けることがあつても、そのことによつて顧客が施設利用の対価を支出したと言ふ事実に何等の消長を来たすものではない。されば打球場施設についても法第七十五条第五項の利用料金なるものは存し、然も玉一個当りの代金額は確定できる筈であるから、打球場施設についての入場税課税標準は確定可能と言はなくてはならない。原告は東京都主税局長の発した通牒並に実務上の取扱を引いて居るが、その通牒の内容並に実務上の取扱が違法であつても法律上、利用料金を課税標準として入場税を課するものであることにはかはりはないのであつて、原告の主張する処は採ることができない。

上叙説示の如く打球場施設は法第七十五条第四項第四号所定の施設に該当し、その利用料金は所謂玉を買ふ代金であるから、同条第一項により打球場施設の利用者は施設利用と言ふ事実により当然玉の代金を課税標準として入場税を納付すべき義務を負ふものであり、利用者が入場税納付義務の存することを意識すると否とに関はるものではない。その入場税の徴収方法は法第八十六条本文により特別徴収の方法によることとなつて居るが、原告は肩書地において打球場を経営して居るものであること当事者間に争がないのであるから法第八十七条第一項東京都税条例第三十二条により原告は特別徴収義務者として、その施設利用者より入場税を徴して之を東京都に納入する義務を負ふものであり、原告がその義務の存することを意識すると否とに関はらない。然も法第八十七条第三項は特別徴収義務者はその徴収すべき入場税について課税標準額、税額等を納入申告し、その納入金を納入する義務を負ふものとし、同法第四項は第三項の規定によつて納入した納入金の中入場税の納税者が特別徴収義務者に支払はなかつた税金に相当する部分については特別徴収義務者は当該納税者に対して求償権を有するものと定めて居ることから見れば特別徴収義務者は単に現実に徴収した入場税金に止まらずその徴収すべきであつた入場税についても申告納入の義務を負ふものと解されるから、原告がその顧客から入場税を徴収して居なかつたとしてもなほ東京都に対する関係では特別徴収義務者としてその徴収すべきであつた入場税について申告納入しなければならないのである。右求償権の行使が打球場施設の経営者にとつて施設利用者の氏名住所が不明なる場合の多い結果事実上困難であることは予想されるが、それは打球場に特有な事情とは言ひ難く、第一号乃至第三号掲記の諸施設にとつても同じであり、且経営者が特別徴収義務者としての義務を懈怠したことの結果なのであるから、求償権行使の事実上の困難さを理由として、打球場施設が入場税の対象とならぬとすることはできない。然る以上原告がその徴収すべき入場税について申告書の提出も納入もして居ないことは当事者間に争がないのであるから税務事務所長が原告に対して法第九十四条第二項第九十七条第二項により入場税の税額並に不申告加算税の決定を為したことは適法であり、原告の異議申立を理由なしとして棄却した被告の決定にも違法の点はない。よつてこの点の原告の請求は理由がないから棄却する。

以上判示の通りであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 桑原正憲 園田治 山田尚)

別表

東京都葛飾税務事務所長の決定

被告の決定

内容

決定年月日

地方税法第九十四条第二項決定税額

不申告加算税額

決定年月日

昭和二十六年十二月分

昭和二十七年

一月三十日

千七百円

百七十円

昭和二十七年

三月二十五日

棄却

同年一月分

同年

二月二十五日

二千円

同年

四月四日

棄却

同年二月分

同年

三月二十五日

千五百円

同年

五月一日

棄却

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